13.プラジャーク弦楽四重奏団の舞台と舞台裏

プラハ弦楽四重奏団
2003年9月「プラハの音楽家たち」コンサートシリーズより 写真提供:札幌コンサートホールキタラ Takeda Hiroharu撮影 

 プラジャーク弦楽四重奏団のメンバーはひとりひとりとても個性的です。カルテットの第1ヴァイオリンは「顔」、第2ヴァイオリンは「胸」、ヴィオラは「腰」、チェロは「脚」によく例えられますが、プラジャークの場合、奇跡的にそのキャラクターにあった人物が見事にそれぞれのポジションについているといえます。第1ヴァイオリンのレメシュさんは物腰が優しく社交的、第2ヴァイオリンのホレクさんは最上級の善人で包容力を備えた人、ヴィオラのクルソニュさんは4か国語をあやつり実務才能にたけているカルテットのお父さんのような人、チェロのカニュカさんは100年に一人でるかでないかの逸材でソリストとしても大活躍、ジョークがすきで奔放、わずかな暇を見つけてはフランス語を学ぶという面もあります。

 彼らの1年の半分は演奏旅行なので、仕事としての演奏がうまく行くようにメンバーそれぞれが人間関係にも心を配っています。特にうまくお互いの適切な距離を保ち続けていることには本当に感心します。飛行機などでの長距離移動の際には、席を続き番号で取ってとなりに座るようなことはしません。これは仲が悪いのではなく、人間関係のちょうど良い距離を保つためです。真剣勝負の本番にのぞむための秘訣です。4人とも、全く威張ったりするところがなく気さくなお兄さん達といった感じで、それぞれメンバーは自分の家族といる時間を最も大切にしています。

 

 プラジャーク弦楽四重奏団は合わせ練習に関してある哲学をもっています。それは「合わせ練習というものは本来不必要」ということです。その根拠は「室内楽において、それぞれの力量が確かでアンサンブルのセンスをもっているもの同士なら、合わせ練習をしなくても合う。一方、アンサンブルのセンスのない者は、たとえいくら合わせ練習をしても合わない。だから、合わせ練習は本来不必要なもの」というものです。

 一瞬、かなり無謀で強引な言い分にも思えますが、長年アンサンブルをしてきた彼らだからこそ言える、「アンサンブルの極意」なのではないでしょうか。

 プラジャーク弦楽四重奏団は、午前中に集まって練習します。練習の内容は、ただ『合わすための練習』ではなく、解釈を確認し合う演奏付き会議みたいなものです。

 彼らは、ひたすら無言で通すというようなことはしません。練習の途中、解釈が異なっていることが分かった時点で、その点について短い論争になります。また、演奏の手を休めずに「おい、そこもっとだせよ」「テンポ揺れてるぞ、刻むところだろう」とか大声で話しながら先に進んでいくということがほとんどです。そのやり取りを見て「良く弾きながら喋れるものだ」と感心させられます。 

 

 来日公演の際には、たいてい我が家に夕食に招待しますが、最近ではビールサーバーを借りて来て生ビールを樽で準備します。チェコでは「ビールは液体のパン」といい、大抵のチェコ人がビール党です。カルテットのメンバーもとてもビールが好きで、サーバーを用意しておくと自分でどんどん汲みに行きます。ビールはとても好きですが、ワインにもかなり詳しいです。フランスでの演奏会がとても多く、フランスのワインをいただく機会も多いのでしょう、フランスワインについてとなるとなかなか話が尽きません。

 

 彼らは世界各国を演奏して巡っています。ヨーロッパ諸国はもちろん、アメリカ、日本、ブラジル、イスラエルなどでも演奏しています。そのなかでも日本は特にお気に入りの国だそうです。地方都市のどこへ行っても立派なホールがあり、マネージメントもしっかりしていてどこへ移動するにもどなたかが必ずついて来てくれるし、こんな国は他にはないと言い切っていました。

 

 2008年4月には東京国際フォーラムで催される「熱狂の日」に出演します。この音楽祭は、フランスナント市で長年開催されている音楽祭の引っ越し公演で、とても安いチケットで超一流演奏家の演奏が聴けるチャンスです。よろしかったら是非お出掛けください。

violaクルソニュ氏
プラジャークSQヴィオラ奏者クルソニュさんと

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